『To The Moon』感想。人の記憶を操るということについて

ゲームレビュー

『To The Moon』はsteamにて配信されている海外製のゲームです。後に日本語翻訳板がPLAYISMで製作、販売されました。海外の作品でありながらRPGツクール製という珍しいゲームです。

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あらすじ

本作の主人公は二人。とある企業に勤めるニールとエヴァの仕事は、今際の際に立っている人の夢を叶えてあげる、という一風変わったもの。
特殊な機械で人の記憶を仮想空間上でシミュレートし、記憶を辿り、依頼人の望む「夢」が生まれた瞬間を探します。そこに強い願いを転送し、「夢に向かって突き進む」人生を再構築させるのです。

簡単に言うと、我々の仕事は、できるだけ早く記憶を辿ることなんです。

そして、彼の心に眠っている願いを転送します。

初期状態から、世界と自分自身を再建するわけです。

蓄積されたデータと彼の記憶を混ぜ合わせて、マシンがシミュレートを再実行してくれる。

これまでとは違い、転送された願いが、人生を動かしていきます。

To the Moon (2)

現実では、願いは形を変えて…やがて消えていきます。

人は、情熱を持って物事に取り組みます。

しかし、少しずつその勢いは失われていくものです。

しかし、最初の情熱のまま、揺らぐことなく一生を過ごすとしたらどうでしょう。

……その力は、想像を遥かに超えます。

今回の依頼人はジョニーという老人。「月に行きたい」という願望があるものの、なぜそう願うようになったのか本人もわからないと言います。

To the Moon (3)

プレイヤーはニールとエヴァを操り、ジョニーの記憶から「月に行きたい」という思いの根源を辿り、彼を月へと届けることが目的です。

ゲームシステム

PVやあらすじを読めばわかると思いますが、本作はRPGツクールで作られていますがジャンルとしてはアドベンチャーゲームです。一部パズルやアクション要素もありますが、「ゲーム」としての体裁を整えるための一要素だと思います。

To The Moonの感想(ネタバレ注意)

クリアしてみての感想をまとめてみました。ネタバレ全開となりますのでご注意ください。

良かった点

シナリオについて

ゲームのピークはやはり祭りの夜にジョニーとリヴァーが出会うシーンでしょうか。泣きました。
ドットで描かれたゲームの中にポンッと一枚絵を放り込まれるのもインパクトがあっていいですね。
灯台、ウサギ、リュック等々の伏線が次々回収されてストーリーが一気に線になったのはとても上手い演出だと思いました。

音楽

BGMはどれも素晴らしく印象的でした。音楽があるかないかでかなり評価が変わると思います。

良くなかった点

面倒くさい移動

移動速度の遅さがストレスでした。同じマップを行ったり来たりするゲームなのでちょっとイライラします。

加えて、草花や話しかけられない半透明のモブにも当たり判定があり、いちいち迂回しなければならないのがストレスに拍車をかけています。

パズル要素は蛇足

パズルとアクション要素は正直いらないと思いました。「読む」ゲームと割り切ってよかったんじゃないかと想います。

終盤の展開

二人の初めてのシーンがピークと書きましたが、反面、そこからクライマックスへの展開は正直満足できるものではありませんでした。

ジョニーの依頼は確かに「月に行きたい」でした。しかしその願望は、リヴァーへの想いが「忘れたはずのリヴァーとの初めての出会いを蘇らそうとしている」表れであって、別に実際に月に行きたいと考えているとは思えません。

記憶障害をかいくぐり出てきた断片が「月に行きたい」だっただけです。

結局エヴァとニールはジョニーを宇宙飛行士にして月に行かせる、という額面通りの方法を取りました。エヴァの言うとおり、彼らは契約を全うしたわけですが、お話を見てる側の私としては釈然としません。

最後二人は月に向かうスペースシャトルの中で手を繋ぎます。夢を最愛の人と一緒に叶えたジョニー。最高の人生ですね。うーん感動的、なんでしょうか。

リヴァーを消すのではないかと危惧したニールに対し、エヴァは二人をNASAで再会させる、という形で折り合いとつけましたが、それがなんだと言うのでしょうか。

このリヴァーは決して「リヴァー」ではありません。二人は現実とは違う環境で育ち、違う道を志し、違う出会い方を遂げています。ジョニーになんとか思い出して欲しい、と頑張っていたリヴァーはこの夢の中ではなかったことにされています。

僕としては中年期のジョニーにウサギの折り紙の真意を教える展開にして欲しかったですね。それがジョニーの頭の中の出来事だとしても、二人が誤解を解き、ちゃんと歩み寄り、幸せな余生を迎える様を見せてほしかったです。

現実で起こった問題を直接解決せずになかったことにして、イチからやり直して、はい二人は今度こそ幸せになりました、というのはあまりにもリヴァーに対して不義理ではないかと思ってしまいます。
(もちろんこの展開はジョニーの意思ではなく、マシンとエヴァの裁量によるものですが)

結局は「今際の際に夢を(頭の中で)叶えさせる」という設定自体に疑問を持たざるを得ませんでした。最後の最後に別の人生を見ながら亡くなるなんて、自分も周りの人にとっても悲しくはありませんか。どうしようもなく不幸な人生であったならともかく、ジョニーは少なくとも冒頭で「良い人生だったと思う」と言っています。

もしこの夢を叶える(叶ったと記憶を改ざんする)という行為に対してプレイヤーに疑問を持たせる、というのも狙いなのであったなら、少しその要素が薄かったかと思います。ラストの演出なんかは明らかに感動させにいってますし。
ただ続編が出ている(日本語版は未定)ので、それによっては評価を変える必要があるかもしれません。

ここまでレビューを書いていて気づきましたが、私は完全にジョニーじゃなくてリヴァーに感情移入していて、とにかくリヴァーに少しでも幸せになってほしかったなぁ、と思っちゃってるんですよね。
ゲームの中でリヴァーはないがしろにされてしまう。でもそれはしょうがないんです。現実のリヴァーはゲーム開始時点ですでに亡くなっているんですから。このゲームでニールたちがすべきことはまだ生きているジョニーを幸せにすることなんです。

ジョニーと最後までわかりあえず、それでもなお「幸せよ」と言い残したリヴァー。なんて切ない。

まとめ

求めていたものと出されたものが違った、と言うんでしょうか。ただただ、悲しい、切ない物語でした。

良くなかった点が随分長くなってしまいましたが、ゲームの出来の良さゆえに出る不満なのかなと思います。祭りの出会いのシーンは本当に感動したので。

ゲームだとどうしても「プレイヤーの思い通りになって欲しい」というワガママが出てしまいますね。これが映画やドラマならスッと受け入れられたんでしょうか。

十分やる価値はある作品だと思います。特に音楽はかなり印象に残っています。