みなさんは「百合漫画」って読みますか?
百合漫画と聞くと「一部のファン層に向けた人を選ぶ漫画」というイメージが正直なところあります。なので私も「抵抗があるわけではないが積極的に読むわけでもない」タイプの1人です。
ですが、そんな私でもハマった百合漫画の1つに『ふたりモノローグ』という作品があります。
ふたりモノローグとは
『ふたりモノローグ』は無料WEB漫画サイト「サイコミ」で配信されていた漫画です(現在は配信終了)。単行本は5巻まで出ていて、4月に最終巻となる6巻が出る予定です。
作者はツナミノユウさん。妖怪とヤンデレ少女の仲睦まじい?交流を描いた「つまさきおとしと私」やある日突然に蝉人間になってしまったサラリーマンが主人公の「蝉丸残日録」など、なかなかにクセの強い作品を描いている方で、本格的な百合漫画はこれが初めて(だと思います)。
あらすじ
小学生の頃、些細なことで喧嘩別れしてしまった御厨みかげと麻績村ひなた。それでもお互い相手のことを忘れられないまま歳を重ね高校生に。そこでふたりはクラスメイトとして、しかも隣の席同士という運命の再会を遂げます。
しかし、仲直りの絶好の機会を得たにもかからわず、お互い過去のことを引きずってしまい素直になれない。なので素知らぬ顔でアプローチをかけてみたり、相手の何気ない一言を深読みして勘違いしたり……。
ギャルとオタク少女の正反対コンビが不器用なすれ違いコミュニケーションを重ねつつ距離を少しずつ縮めていく、いわゆる「両片思い」型でコメディ色の強い百合漫画です。
正反対なふたりの主人公
※登場人物の紹介には僭越ながら私が描いたイラストを使用しています。
御厨みかげ
本作の主人公の1人。小学生の頃にもう1人の主人公である麻績村ひなたと仲良くなるものの、独占欲が強いみかげはクラスの人気者であったひなたを独り占めできないことに苛立ちを募らせます。
そこで「ひなたちゃんの一番になりたい」とオシャレで格好いい女になることを決意。家庭の事情で突然転校することになるもひなたへの思いは褪せることなく、スタイル抜群なバリバリのギャルへと変貌します。
しかし、メンタルの弱さや気難しさは克服できておらず、再会後も自分からひなたに声をかけることができずにいました。
ひなたへの思いは友情というより恋愛感情に近く、その自覚はあるものの過去のトラウマから同性相手にそういう感情を抱く自分を受け入れられていないところがあります。
麻績村ひなた
もう1人の主人公。ギャル化したみかげとは正反対に根暗で子供っぽいオタク少女に成長しました。ですが小動物的な可愛さや純真無垢さがあって今もみかげを惹きつけて離しません。
本作はひなたが隣りにいるギャルがみかげであることに気づくところから始まりますが、不良ギャルになった彼女にビビりまくり。「過去のことを根に持っていていじめられるんじゃないか」と勘違い。しかし持ち前の優しさと芯の強さでみかげとの距離を少しずつ縮めていこうと努力します。
みかげとは違い、あくまでみかげを友人として見ており恋愛感情は持っていません。
他の百合漫画とは一線を画す表現が魅力
『ふたりモノローグ』はその名の通りモノローグ(心の声)が多く、話の大半は「ひなたの一挙手一投足に悶えるみかげのリアクション」で構成されています。
そして本作の魅力になっているのがその表現力です。
独特すぎるセリフ回し
百合漫画といえば儚げなポエムなどで感情の機微を描くというのがありがちなイメージです。ですがこの漫画で紡がれるのはポエムではなく、独特の言語センスによる破壊力のあるパワーワードの応酬。
いくつか挙げてみました。
- 隣にあるべき人がいるこの安寧…乾いた大地に潤いが取り戻されてゆく……
- うなじに汗張り付く後れ毛!そしてこの脊椎の波!なぞりたい!
- ひなたちゃんには私に必要な栄養素がすべて詰まってるからね。
- 庇護欲の中枢に破城槌をブチ込まれた気分だよ!
おおよそ「百合漫画」から発されたとは思えない名言の数々にとにかく笑わされてしまいます。
絵のチカラもすごい
ビジュアル面での表現もこれまた個性的でセリフ回しに負けていません。
「食べちゃいたいくらい可愛い」なんて言い回しが古来からありますが、この漫画ではガチで食べにいきます。比喩やイメージ映像ではなく、ひなたのあまりの尊さに人の形を保てなくなったみかげはクリーチャーへと変身し、文字通り喰らいかけます。
「切なくて胸が苦しい… (キュン) 」 もこの漫画にかかれば「切なくて胸が苦しい… (ボグッ!)」になります。これはもちろん心臓が物理的に潰れる音です。なのでみかげはときめくたびに逝きます。なんのこっちゃって感じですが事実です。
ジャンル上は百合漫画ですが、個性的でクセの強いコメディ要素のおかげで広い層にオススメできる漫画に仕上がっていると思います。
この漫画を語る上で避けて通れない女、佐呂間由依
脇を固める他のキャラクターたちもこれまたひと癖もふた癖もある人物ばかり。
中でも私がぜひ紹介したいのが2人の友人である佐呂間由依。正直この子のおかげでこの漫画にハマったと言っても過言ではないです。
ひなたとは中学時代からの良き友人。おしとやかで礼儀正しく、一見するとまともな美少女キャラ。ですがその本性は……。
みかげへ異常なまでの好意を一方的に寄せているストーカー気質のレズ。しかも真っ当に愛されることを良しとはせず、みかげに蔑まれ貶められることを至上の喜びとしているいわゆるクレイジーサイコレズです。
その上チョロイン属性も兼ね備えており、ちょっとしたことで口説かれていると勘違い。自分を中心としたハーレムを(脳内で)作り出し、あえてドロドロの修羅場に(脳内で)展開させることで愉悦を感じてしまう自家発電の達人でもあります。
みかげの能力がクリーチャー化なら佐呂間氏は肉体が溶解したりどす黒いハートをばら撒いたりします(決して異能バトル漫画ではない)。
みかげもそうですが、この漫画はときめきや感情の高ぶりの表現がとてもぶっ飛んでいているところが逆にめちゃくちゃキュートで最高です。アニメで動く佐呂間氏も見てみたい……。
もちろん百合漫画としても面白い
コメディ部分の評価が続きましたが百合漫画・恋愛漫画としての見どころもきちんと備わっています。知り合いの百合好きからもなかなか好評です。
みかげの若干一方通行ぎみな恋の行方や、2人が過去の心の傷やトラウマをどう乗り越えていくかもしっかりと描かれています。
ギャグもシリアスもしっかり楽しませてくれる漫画です。ぜひ読んでみてください。
講談社 (2017-07-28)
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